陰陽五行の話



桃の節句

春の季節は寅(1月)・卯(2月)・辰(3月)の3ヵ月。木火土金水の木氣に属し、木は水から生じられます(水生木)。木が燃えて火が生じ(木生火)、木は大地から水分を通じてその栄養素を取るので土を剋するのです(木剋土)。この木氣の旺じる卯月には、夜より昼のほうが長くなり、段々春日の暖かさを感じ、一切の草木から清々しい新芽を見ることができます。  

この月は五穀豊穣を祈っての祈年祭(としごいまつり)が執り行われます。 桃の節句  また、3月3日は雛祭り、これは女児の祭りですが、段々飾りのゴージャスな雛人形は日本の平安時代様式あるいは宮中様式なのでしょうか。菱餅に白酒、桃の花。江戸時代から贅沢なものになったようですが、赤がまぶしい緋毛氈の上に鎮座する人形の晴れやかな衣装とその顔の無表情のなかの意思、そして精巧を極めた道具類など江戸時代からの華麗なるも独特な生活文化をみることができます。

本来は、五節句(※1)のひとつで上巳(じょうし)の節句といわれ、はじめの巳の日の意で、平安貴族間でこの日に陰陽師を召して払いをさせ、植物や紙で作られる素朴な人形(ひとかた)に穢れや災いをうつして川などに流したとのこと。一方、朝鮮では、この上巳日に人形への穢れ写しのような呪術式風俗や雛人形飾りのようなものは見当たりません。ただ上司日には、中国江南に飛び去ったツバメも帰ってくる、といわれています。そして暖かくなった山に出かけ、つつじの花を摘み、「花煎」(ふぁちょん)という、花の姿が美しくも香りたかい焼餅をつくって食します。

また、山野で花が咲き乱れるこのごろには蝶が出始めるので、人々は出くわす蝶によってその年の運・吉凶を占います。黄色の蝶かアゲハチョウを最初に見ると運がよく、白い蝶だと父母の葬式をだすとされ凶兆。ここでも五行の黄は中央で引力だから幸運とされ、白は西で現実世界では死をあらわすので凶とされているのです。

また、上巳日に髪の毛を洗うと美しくなるというので女子たちは好んでこの日に髪を洗ったようです。この上巳禊祓(みそぎはらい)(※2)ですが、易においては、巳は地中生活・冬眠生活が終わって新しい地上活動をするという意味で、蛇の脱皮で新しい自分の出発を意味するといわれています。そして必ず水が関係するのには、水は上から下に流れる性質で、巳は火気に属し火は下から上に燃え上がる性質であり、この水火の交流による陰陽合体が新しい生命の誕生をも示唆しているのです。

※1五節句:一年に5度の祝いの行事。陰暦正月7日の人日、3月3日の上巳、5月5日の端午、7月7日の七夕、9月9日の重陽

※2 禊(みそぎ):身にけがれや罪があるとき、それを払うため、また祭りなど神事のある前に川原にでて水で心身を清めること